自然素材にこだわる理由

(仮称)瑞浪の家127

自然素材にこだわる理由

自然素材にこだわる理由はシックハウスによる健康問題や環境問題など様々ありますが、私は「愛着」というキーワードも忘れてはならない重要なキーワードだと思います。個人差はあると思いますが、私の実体験として、無垢の木や漆喰などの自然素材ににこだわった家を何度も実際に体感すると、その居心地の良さや安らぎなどの心の充実感、無垢の木そのものの質感、目の前にある漆喰そのもののありのままの魅力、言い方を変えますと大げさかもしれませんが、なんとも言えない生命の喜びを感じます。

愛着の大切さ

英国での一般住宅での体験/私が愛着の大切さを最も強く実感したのは、昔、多くの英国の民家を見てまわり、その際B&Bとして宿泊させて頂いた家での体験です。その家の奥様は、まるで子供を育てるかのように、愛情を持って自分の家の手入れやメンテナンスを行っており、極めつけはその家の歴史の書かれた百科事典のような本まで存在したのです。奥様から話しを伺うと、その家はなんと14世紀に建てられたそうです。

その後、増改築や改修を繰り返し、その記録も写真入りでその家の本に書かれています。構造材はオークを使っていて、階段から見えるむき出しのオークは、14世紀の新築時のままだそうです。古いだけあって、階段を上る際、多少揺れます。震度3でも倒壊しそうなその家に宿泊させて頂き、確かに、仮に自分が所有者であったとしても、その家は解体せず大切に使いたいな、と強く実感しました。私がそのように強く残したいと思った理由を色々考えますと、その最大の理由は、本物の自然素材が醸し出す部分と全体が渾然一体となった魅力によるものだという推論に至りました。

具体的には、先ほど例に出したオークのむき出しの構造材や厚塗りの漆喰壁、味のある床、そして木製の窓や粘土を焼いて作った屋根、そして極めつけは、土の質感をそのまま残したような、日本にある無機質で精度の整った煉瓦とは全く違う、土っぽく大変味わい深い外壁の煉瓦です。
それら自然素材の家全体が醸し出す深い味わいや、家全体や個々のパーツが放つそれぞれの存在感こそが愛着の源だと感じました。これは無機質な化学に頼った工業製品では感じられない感覚で、より製造工程の少ない、元々あった自然に近い素材を使ったからこそ感じられるのだと思います。

その家以外にも何件かの家の室内や、多くの家の外観を観てまわりました。そして、上記の家が特別ではなく、多くのイギリス人が築80年であっても魅力的だと思えば、古い家を愛し、メンテナンスをしながら好んで住んでいるようです。その根底には存続させるための法律制度や構造強度、機能性というよりは、本能的にその家を残したいか残したくないかという気持ち、別の言い方をすれば、その家に対する「愛着」の深さが一番大きな要因ではないかと思いました。

英国コッツウォルズでの体験

コッツウォルズは、特別自然美観地域として指定され、現在では高級住宅地としてイギリス人の間でとても人気がある地域です。そのコッツウォルズを実際に観た感想としては、おとぎ話にも出てきそうな、詩的で美しく、時間の流れがとてもゆっくりしている夢のような場所だと思いました。英国の家の寿命は、公式な平均でも80年以上なのですが、コッツウォルズの家々は、100年以上の家がかなり多いそうです。コッツウォルズの家々は、ザク切りの石を丁寧に積まれた「THE自然素材」といった感じの質感溢れる石積みで、その存在感はなんとも言えない魅力があります。化学に極力頼らず、素材そのものの良さを活かしたからこその魅力だと思います。

日本の新しい家や街並みへの疑問

戦後建てられた日本の多くの家は、人工的で化学・工業的な材料でmm単位の精度で家が造られています。精度、誤差にこだわるのも良いのですが、今の日本は、何か大切な価値観を見失っているような気がしてなりません。おそらく明治以前の日本には、私が英国をはじめとする西欧に感じた家や街並みの魅力が、少なからずあったのではないかと思います。特に戦後の日本では、住宅の絶対数が必要な事情から、化学工業製品をフル活用した大量生産型の家づくりを優遇する税制がとられ、ハウスメーカーが主導する今の日本の家づくりに拍車がかかりました。しかし、英国をはじめとする西欧の建築を実際に現地で観てしまうと、日本の住宅建築における言いようのない違和感や、本当にこれで良いのだろうかという大きな疑問が止みません。工業製品にも利点があり必要だと思いますし否定するつもりはありませんが、それでも、木や土、石や漆喰など自然界にそのまま存在する自然素材の素材感を活かした愛着の持てる家を生み出す事を目指していきたいと思っています。

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