LDKが一体となった家が一般的ですが、今回の写真のように、緩やかに仕切られた「個室感のあるダイニング」も居心地のいいダイニング空間をつくる上で一考に値するおすすめのスタイルです。
個室感を別の言葉で表現すると「囲まれた小さな穴に籠るような」、さらに別の言い方をすれば「胎内回帰的」とも言えると思います。この居心地のいい個室感を生み出すために重要なポイントが二つあります。
【ポイント①/天井の高さ】居心地のいい個室感を生み出すために一番重要なのは天井高です。一般的には2.5m前後の天井高を目指した家が多いの思うのですが、個室感を出すためには敢えて天井高を下げることがポイントとなってきます。どのくらい下げるのかというのは、他の空間との関係などによっても変わってきますが、例えばこの写真のダイニングの天井高は2.2mです。そんなに低いの!と思われるかもしれませんね。ここまで天井高を下げる際、多くの一般の方は圧迫感を感じないだろうかなどの不安を感じるでしょうし、提案するにも勇気がいることで、尚且つ、クレームの元になりかねないので一般的な建築屋さんはやらないことだと思います。これは大げさな表現かもしれませんが、設計の道を志し、多くの空間を天井高という観点で体感して確信を持てたからこそ出来る表現だと思います。
【ポイント②/程よく閉じる】もう一つ居心地のいい個室感をつくるのに大切なポイントは「程よく閉じる」ということです。別の言い方をすれば、開放感を減らして他の空間と緩くつながるということです。つまり、先程は天井のお話しでしたが、今回は壁のお話しです。ダイニングの四方を完全な壁で閉じてしまうと、空間が狭いだけに閉塞感や圧迫感を感じかねません。そのため、隣接した空間と緩く繋げることが大切になってきます。今回のこの家のダイニングは、三本の引き戸の開け方で解放感を調整できます。また、完全に引き戸を閉じたとしても、組子細工の入った建具により程よく視線の抜けができて、程よい個室感ができます。さらに言うと、視線の抜けも、美しいお庭や、隣接した空間のより奥の方まで視線が抜けるとなお豊かな個室感が生み出されます。
居心地のよさというのは、使い勝手のいい動線計画や機能性の高い住設機器などと違い感覚的な要素が強く、なかなか説明するのが難しい分野です。ですが、ネコが居心地のいい場所を好むように、もしかしたら人間にとっての居心地のよさを生み出すことこそが設計の一番の醍醐味と言えるのかもしれません。(ちなみに、この写真は「坪庭のある招き屋根の家/愛知県春日井市」のダイニングです。)